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Debian 13(コードネーム trixie)は2025年8月にリリースされた最新の安定版だ。前バージョンの bookworm から約2年ぶりのメジャーアップデートで、さくらのVPSでも新規契約時に選べるようになっている。本記事は「12→13へのアップグレード手順」ではなく、既存のアップグレード手順記事の補足として、trixie で実際に何が変わったのかを運用者目線でまとめる。
Debian 13 とは何か
Debian のコードネームは映画『トイ・ストーリー』のキャラクターから取る伝統があり、trixie は青いトリケラトプスのおもちゃの名前。安定版としての位置づけは bookworm と同じで、サポート期間はリリースから通常サポート+LTSで合計5年程度が見込まれる。本番投入の目安として「リリースから半年〜1年様子を見る」という運用も多いが、2026年に入った現時点ではかなり枯れてきた印象がある。
カーネルとsystemdの世代更新
デフォルトカーネルは Linux 6.12 系(LTS)にアップデートされた。bookworm の 6.1 系から見ると2世代分の進化で、新しいハードウェアのドライバやファイルシステム周りの改善が入っている。init システムの systemd も 257 系に更新され、systemd-analyze や journal 周りの細かい挙動変更がある。既存の unit ファイルがそのまま動かなくなるケースは稀だが、独自の service ファイルを運用している場合は systemctl daemon-reload 後に systemctl status で警告が出ていないか一度確認しておくと安心。
64-bit time_t 移行(2038年問題対応)
trixie で地味に大きいのが、32bit アーキテクチャ(i386・armhf・armel など)における time_t の64bit化だ。従来の32bit環境では time_t が32bit整数のままで、2038年1月19日に日時がオーバーフローする、いわゆる2038年問題を抱えていた。これに対応するため time_t に依存するライブラリ群のABIが変更され、影響を受けるパッケージ名に t64 サフィックスが付くようになった(libc6t64 など)。amd64 や arm64 のような64bit環境はもともと time_t が64bitなので直接の影響はないが、古い32bit VPS や組み込み系からの移行を検討している場合、依存パッケージの再ビルド・置き換えが必要になる点は覚えておきたい。
/tmp のtmpfs化とその影響
運用上もっとも実害が出やすいのがこれ。trixie では systemd upstream のデフォルトに合わせ、/tmp が RAM 上の tmpfs としてマウントされるようになった。次のコマンドで有効化されているか確認できる。
systemctl status tmp.mount
df -h /tmp
df -h /tmp の Filesystem 欄が tmpfs になっていれば対象。これにより /tmp に巨大な一時ファイル(DBのダンプやアップロードの中間ファイルなど)を置くと、ディスクではなくメモリを食う。メモリが少ないVPS(1〜2GB)では思わぬOOMの原因になるので注意したい。無効化するには tmp.mount をマスクすればよい。
systemctl mask tmp.mount
systemctl daemon-reload
マスク後は再起動するか、手動で通常のディスクバックの /tmp に戻す。サイズを制限しつつtmpfsのまま使いたい場合は、/etc/systemd/system/tmp.mount.d/override.conf を作って Options=size=512M のように上書きする方法もある。
APTの変更点(deb822形式)
trixie のインストーラは /etc/apt/sources.list.d/debian.sources を、従来の1行形式ではなく deb822 形式(.sources 拡張子、key: value 形式)で生成するようになった。
Types: deb
URIs: http://deb.debian.org/debian
Suites: trixie trixie-updates
Components: main contrib non-free-firmware
Signed-By: /usr/share/keyrings/debian-archive-keyring.gpg
従来の /etc/apt/sources.list(1行形式)も引き続き読めるので、既存サーバーをアップグレードしただけなら書式が勝手に変わることはない。ただし新規構築時やリポジトリ追加作業をする際は、deb822形式が標準になっていることを前提に手順を書き換えておいたほうがよい。
主要パッケージのバージョン
サーバー運用に関わる主要パッケージのバージョンはおおむね以下の水準まで上がった(細かいマイナーバージョンは環境やリリース時期による)。
- PHP: 8.4系がデフォルト(bookwormは8.2系)
- nginx: 1.26系
- MariaDB: 11.4系(LTSブランチ)
- Python3: 3.13系がデフォルト
PHP 8.2→8.4 は非互換がそれなりにあるので、Laravelなど本番アプリを載せている場合は composer.json の require.php 制約と、依存パッケージの対応状況を先に確認したほうがいい。
non-free-firmwareコンポーネントの扱い
bookworm から追加された non-free-firmware コンポーネント(Wi-Fi/NICなどのファームウェア用)は trixie でもインストーラのデフォルトに含まれたまま。VPS環境では直接ファームウェアを使う場面は少ないが、KVM/物理ホストで特定NICのドライバが必要な場合はこのコンポーネントが有効になっているか確認しておくとよい。
サーバー運用者が注意すべきポイント
/tmpがtmpfs化されたことによるメモリ消費増(特に低メモリVPS)- PHP 8.4への言語仕様変更(deprecated警告の増加など)
- 32bit環境からの移行を予定している場合のtime_t ABI互換性
- APTソース定義がdeb822形式に変わっている前提での手順書メンテ
まとめ
Debian 13は見た目には地味だが、64bit time_t移行や/tmpのtmpfs化など、裏側では2038年問題対応や上流systemdへの追従といった構造的な変更が入っている。特に/tmpのtmpfs化はメモリの少ないVPSで実害が出やすいので、アップグレード後はdf -h /tmpを必ず確認しておきたい。
